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最高裁判所第三小法廷 昭和29年(あ)2424号 決定

主文

本件上告を棄却する。

当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

弁護人吉沢喜作の上告趣意第一点及び第二点並びに被告人の上告趣意について。

所論は刑訴四〇五条の上告理由に当らない。(被疑事件につき逮捕状により逮捕せられた被疑者に対し、市警察局公安部において所属警察員が、刑訴二〇三条に基き、被疑事実の要旨及び弁護人を選任し得る旨を告げ被疑者がこれに対する供述をしたのでその旨を記載した弁解録取書原本を執筆しこれを読み聞かせ誤の有無を問うたところ被疑者は黙秘したため、司法警察員はその旨の文書の一部を末尾に記載した場合においては、右弁解録取書は未だ被疑者及び右司法警察員の作成者としての署名捺印がなくても刑法二五八条にいわゆる公務所の用に供する文書というを妨げない。そして、かような文書を他人がほしいままに両手で丸めしわくちゃにした上床上に投げ棄てる行為は同条にいわゆる毀棄に当るものと解するを相当とする。原審が肯認した第一審判決の認定事実によれば「被告人は昭和二七年六月七日窃盗及び政令三二五号占領目的阻害行為処罰令違反等の被疑事実につき、逮捕状により福岡市警察局員に逮捕せられ、同日午前一一時頃同局公安部警備課において、同課司法警察員巡査部長行実信直より刑訴二〇三条に基き、被疑事実の要旨及び弁護人を選任し得る旨を告げられこれに対する供述をしたのでその旨記載した弁解録取書を作成せられた上これを読み聞かせられ誤の有無を問われたところ黙秘したので同巡査部長においてその旨の文言を末尾に記載中、たまたま同部長が右書面を机上においたまま一寸わき見をした瞬間その隙を窺い右弁解録取書を取って両手で丸めしわくちゃにした上床上に投げ棄てた」というのであるから、被告人がこれを取って両手で丸めしわくちゃにした際においては、右文書は刑法二五八条にいわゆる公務所たる福岡市警察局の用に供する文書であり、そして、被告人がこれを取って両手で丸めしわくちゃにした上床上に投げ棄てた判示所為は同条にいわゆる毀棄に当るものというべきである。)

また記録を調べても同四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって同四一四条、三八六条一項三号、一八一条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 垂水克己 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三)

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